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中欧四都めぐり 総括編 2014.8.30〜9.4
その1 国とは,国境とは


旧社会主義国

チェコスロバキアは,1989年のビロード革命により共産党政権が崩壊し,1992年に連邦制を解消して,チェコ共和国とスロバキア共和国とに分離した。ハンガリーは,戦後からの社会主義時代から,1989年にハンガリー共和国憲法の施行により体制転換をした。現地ガイドは,旧社会主義時代のことを時々話をした。生産性がなく,活気もなく最悪の時代だったと完全否定をする。専制君主の時代,戦争の時代,社会主義の時代を経て,ようやく自由を獲得した市民の喜びが分かる。隣国と地続きで,いろいろな国の支配を受けてきた苦難の時代があったからこそ,民族としての意識や故郷への思いや誇りが強いのではないかと思う。石の文化の国々であったからこそ中世の建物が現存していることもあるが,これらの意識が世界遺産に値するのかもしれない。
ソビエト連邦が崩壊し,ロシアを中心とする「独立国家共同体」から抜けたいウクライナ問題でプーチンが必死になっている理由もここにあるのだろう。


EU・ユーロ・シェンゲン協定

今回訪れた4か国は,いずれもEUに参加している。シェンゲン協定により国境検査なしで国境を越えることが出来る。旅行者にとっては,誠に便利である。ただし,パスポートにその記録が残らないので,ほんとにその国に行ったかどうかの公的証明はないことになる。プラハ−ウィーンが車で約6時間,ウィーン−ブダペストが約4時間,ウィーン−ブラティスラバが約1時間である。車に乗って隣の県に行くようなものである。
しかし,通貨は国によってまちまちである。オーストリアとスロバキアはユーロ,チェコはチェココルナ,ハンガリーは,フォリント。我々が行くような所では一応ユーロが使えるが,金額表示がそれぞれの国ごとの通貨になる。1ユーロ=140円,1チェココルナ=5円,1フォリント=0.5円。これをユーロで支払うことになる。600チェココルナは30で割って約20ユーロ,600フォリントは,300で割って約2ユーロという計算式が出来た頃には,旅が終わりを告げていた。これでも,フランやポンドなど国ごとに違っていた時代に比べるとずいぶん楽になったのだろう。しかし,ユーロを導入すると,その国独自の経済政策がとれなくなる。利便性と危険性が裏表の通貨である。

 (ユーロ紙幣とチェココルナ,フォリント硬貨)


イギリスなどは,EU加盟国であるが,ユーロも導入していないし,シェンゲン協定にも参加していない。もっとも自国が分裂する危機でもあり,それどころではないのかもしれない。みんな,大人の事情を抱えている。


国際河川

島国日本では,河川は自国内で完結する。どうやらこのことは,とても特殊な例らしい。大陸では,自国内だけで完結する河川はほとんどない。大河になればなるほど,多くの国を通って流れていく。
河川が複数の国家を流れるときに,沿岸の国が協定を結び,どの国の船舶も自由に航行できるようにしている川を国際河川というのだそうだ。国際河川の代表というのが,ドナウ川。ドイツのシュヴァルツヴァルトを水源に,10か国を経て黒海にそそぐ。
オーストリア・ウィーンでは,車窓からではあったがドナウ運河を眺めた。スロバキア・ブラティスラバ城からはドナウ川を見下ろし,ホテル・ダニューブ・ブラティスラバでは,50セントトイレを利用した。ハンガリー・ブダベストでは,ドナウ川にかかるくさり橋をバスで渡り,王宮や砦などでいろいろな角度から眺めた。三か国の首都から眺めたドナウ川であった。
ブラティスラバ城の駐車場(というか単なる道路脇)に多くのバスが停まっていた。ガイドさん曰く,「普段は多くて2・3台なんですけどね。ちょうどクルーズ船のお客さんが着いたのでしょう」と。ドナウ川沿いにクルーズをしながら諸国を巡る旅もブームだそうである。
モルダウ川も国際河川エルベ川の支流に位置付けられている。エルベ川もチェコ・ドイツを通る河川であり,流域面積でいうとポーランドも含まれる。
こうなってくると,運輸だけの問題にとどまらず,洪水対策,環境保全など,国のインフラ整備にかかわることを関係国同士が密接に連携して取り組まなければならないことになる。


韓国と北朝鮮

シェンゲン協定国間では,国が違って自由に国境を越えることが出来る。しかし,韓国と北朝鮮は・・・。
仁川空港は,北朝鮮との国境線から南に約40qの所にある。40qといえば,新潟と中之島ほどの距離である。仁川空港の滑走路は,おおむね南北に延びている。しかも,風の関係で南側から離陸することが多い。南側から離陸した飛行機は,直進して5分もたてば,北朝鮮の領空侵犯になる。さてどうするか。北京や青島,香港,新潟に向かうときは,離陸するやいなや大きく左旋回をする。

 (北朝鮮 迂回)

ヨーロッパに向かう場合,直進して北朝鮮を通りハルピン上空あたりを通過することが一番近道である。実際は,離陸後すぐに大きく左旋回し,大連・瀋陽・長春あたりを通過している。ちょうど北朝鮮を迂回する形である。
同じ民族同士が,互いに反目しあう不幸な現実がここからも見えてくる。




その2 酒と食事

ワンプレート

お任せ食事のツアーだったため,一応その場所の名物料理が出てくる。昼食4回夕食4回である。
いずれの食事も基本は,スープ・ワンプレートのメインディッシュ・デザート・パン。ワンプレートの中には,メインディッシュとジャガイモ料理。実に質素なものだった。西洋料理というと,日本で食べるフランス料理をイメージする。あんなにたくさんのフォークやナイフ・料理は出てこない。フォークとナイフは一つずつ。向こう側にデザート用のスプーンが一つ。この方が,皿も少なく,後片付けにも都合がよい。

(ターフェルシュピッツ)

メインディッシュの味付けはと言えば,基本塩コショウかな。手の込んだ料理というよりも,よく言えば素材の味を生かしている。
改めて,日本の料理の凄さを感じた次第である。


ピルスナー

昼間っからビールやワインが飲める,極楽のような日々であった。ただし,食後数時間のバス移動があるために,むやみに飲めないのが残念。
チェコは,ピルスナービールの発祥の地だとか。日本で普通に飲まれているビールは,基本ピルスナーである。しかし,何か少し違う。チェコのピルスナーは,フルーティーと言えばいいか。
アメリカのバドワイザーは,もともとチェコでスタートしたものとか。この商標については,ずうっと裁判になっているそうだ。そのため,ヨーロッパ各地では,アメリカのバドワイザーの商標は使えず,バドなどの商標で販売されているとか。
それにしても,チェコの人たちは,ピルスナーにこだわりを持っていることが垣間見えた。どのレストランに行っても,「ピルスナー」表示である。日本では,プレミアムモルツだとかスーパードライだとか,商品名で飲んでいる。しかし,かの地は「ピルスナー」一本やり。チェコ空港の中では,「ここが最後のピルスナー」という看板で宣伝しているパブもあった。
ワインは,グラスワイン専門で,安物であろう。しかし,フルーティーなその味わいは,Kにとって十分なものであった。ウィーンのレストランでは,ワイングラスに線が入っていた。ほたるさんからの事前情報があったので,知ったかぶりをしてうんちくを述べたKだった。その他の都市では,グラスの線には気付かなかった。

 (甘い甘い トカイ貴腐ワイン)

ハンガリーは,トカイワインという貴腐ワインの有名な産地があるとか。貴腐ワインについて,「遅摘みで,干しブドウのようなものを醸造したものでしょう」などと,またKがうんちくを述べると,「干しブドウがワインになるんですか」などと,いぶかしげな顔で尋ねてくる人もいた。まあ,このあたりは,文化の違いということでそれ以上深入りしないように気を付けた。
そうそう,そのトカイワイン。旅行社から1本プレゼントされたが,甘すぎて甘すぎて,ということで飲みきれない。これって本当に貴腐ワインなのかな。



中欧は,落ち着いた中世の時代が今に息づいているように感じる。ハプスブルク家・マリアテレジアなどなど,歴史の表舞台で生きた人々。その裏で,苦しく質素に生活した多くの民。その空気感に接することができた旅であった。

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